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『ダブルケアでも大丈夫!~研究からみえる未来~』でいただいたご質問への回答

Q1. 考察で述べられていた「アウトリーチの重要性」について。

      今回の調査で、アウトリーチがうまくいったケースはありますか?

   また、あるならばうまくいった要因は何でしょうか?

 

A1. 本調査においては、介護支援専門員(ケアマネジャー)をはじめとした様々な専門職の関わりによって助けられたとの語りがありました。それは、「子育て中に介護がはじまった」場合でも同様でした。例えば介護支援専門員の関りをみてみると、子育ての大変さも評価し、ケアプランに反映させているケースなど、介護サービスという自身の立ち位置によりながらも子育て中のケアラー支援を行っている場合がみられました。

 一方、考察の中で述べた「アウトリーチ」が必要な場合とは、予想しなかった高齢者介護の発生にはじまる危機的状況にある事態です。こちらについては、残念ながら、介護分野以外の専門職から介護問題に関与していくといった「アウトリーチ」が行われているケースはありませんでした。なお、この発想は、重層的支援体制整備事業で言われているような分野横断的な支援システムを想定しつつという感じです。

 

Q2.考察で述べられていた「ピアの重要性」について。

   「ケアラーをエンパワメント(=ケアラーの持つ力を引き出す)していく」

 というお話がありましたが、渡邉先生がすでにダブルケア支援に取り入れている

 理論やプログラムがありますか? 

 

A2. これは、当事者の皆さまと研究の枠組みについての検討を行っている中で、ケアラーに集中する多重タスクを介護・育児の社会サービスや、他の家族員にシェアをしていくことの重要性が浮かび上がってきたことが背景にあります。エンパワメントは多義的ですが、ミクロレベルの活動に焦点をあてて使用しているという自覚はあります。ダブルケアラーの方は多重タスクに振り回され疲弊している、つまり外的要因よってパワーレスになっているものととらえ、そのコントロール感を醸成するということが重要だという意味で使用させていただきました。この使用方法ですと、別の理論やアプローチからの説明もできるかもしれません。

本研究においては、「ダブルケア」という事象そのものを課題とはせず、それによりケアラーがパワーレスになっていることを課題としました。一方、マクロ的な視点から考えますと、特に女性にこのような多重タスクが集中する社会構造自体を問題とするスタンスもあるかと思います。実際、当事者として支援活動を行っている皆さんは、こうした社会構造を変えていく必要性を考えている人もいると思います。こちらのほうが、エンパワメントの本来的な意味かもしれません。

 また、先述の危機的状況においては、このようなアプローチよりも、危機介入として、できるだけ早期に危機的状況から脱するための支援が必要であると考えています。その際のアウトリーチへの気づきという点では、システム理論的な思考も重要ではないかと思います。