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「幼児教育の無償化」の対象施設

こんにちは、はじめまして。NPO法人「こだまの集い」理事の森安 元希です。
普段は企業主導型保育事業施設「保育所くまこぐま」(https://kumakoguma.com)の園長として保育施設の運営と経営、また保育士として子どもたちの保育をしています。

ダブルケアの課題に対して保育施設側の視点からなにかご提案などができることがあればと思い、「こだまの集い」のお手伝いをさせていただいています。

その取り組みの一環として今回は記事の形で「保育」に関する情報の提供をしていこうと思います。初回は「幼児教育の無償化」施策とそれに関する施設の情報についてです。

2019年10月から「幼児教育の無償化」施策が全国で実施されています。実施にあたりニュースやアナウンスも沢山されましたから聞いたことがある人も多いと思います。

育児」と「介護」などを両立させるダブルケアラーの方々にとっても重要な施策ですので、項目ごとに記事を分けて、出来るだけ分かりやすいようにその詳細をお伝えしたいと思います。

① 「幼児教育をおこなう施設」ってどこ?

そもそもこの「幼児教育の無償化」という表現、実は少し曖昧な表現です。
「無償化」が「利用料金がかからないこと」というのは直感的だと思いますが、「幼児教育」とはこの場合、なんのことを言い表しているのでしょうか?
筆者は保育士の資格を有していますが、それでも初めて聞いたときは「この施策の言う幼児教育って、どこまでのことだろう?」と思いました。
児童福祉法学校教育法における「用語」として「幼児教育」という表現はあるのですが、一般に使われる場合はもっと広い意味合いで使われていることが多いのです。)

実は今回の施策における「幼児教育の無償化」というのは三つの段落に分解できます。
施策を正しく理解するために段落ごとに詳しく見ていきましょう。

▲「幼児教育の無償化」施策三つの段落

① 対象施設は『行政が認める幼児教育をおこなう施設』。
② 行政の負担は原則「基本利用料金」。
③ 対象幼児は原則3歳以上児。

今回の記事では一番解説の必要な「①対象施設は『行政が幼児教育をおこなう施設』」について説明していきましょう。

「幼児教育」という表現だけでは曖昧だと伝えましたが、『行政が認める』というように具体的にこうした言い方をした場合は「5種類」の施設を意味しています。

▼「認可保育所」
▼「幼稚園」
▼「認定こども園」
▼「認可外保育施設」
▼「幼稚園類似施設」

逆に、『一般に』幼児教育をおこなうとされている施設のなかで今回の施策の「対象外」となった施設あります。

 ▽「認可外保育施設として届け出を出していない施設・事業」

該当の5種類と非該当の1種類、合わせて「6種類の施設」がそれぞれどういったものであるかをお伝えしていきたいと思います。

 

 

▼「認可保育所」

(施設説明)
未成年の福祉についてとりまとめた「児童福祉法」に基づく「児童福祉施設」であり、その「児童福祉法」により定められた設置基準を満たし、都道府県に認可されている施設です。
厚生労働省が所管します。

保護者が仕事や病気、就学などの理由で「保育の必要な未就学児」が家庭にいる場合にその子を預かり保育する施設です。

 ※用語における「保育」とは健康で安全に擁護すること、心身が健全に発達するように教育することの両方を意味します。

 

(施設分類)

市区町村が運営する「公立保育所」と、社会福祉法人などが運営経営する民間保育所「私立保育所」があります。

また、市区町村が認定する「地域型保育事業」には「家庭的保育事業」「小規模保育事業」「事業所内保育事業」「居宅訪問型保育事業」があります。
いずれも比較的小規模な保育所であり特定の需要に合わせて実施されています。

(利用方法)
認可保育所は多くの場合、設置住所の市区町村民が利用できます。
利用の前提にあたる「保育の必要な未就学児」がいることを市区町村に認定されたあと、利用希望施設を市区町村に申し込みます。

利用料金は「応能負担」が採択されていて、利用者の住民税額により変動します。

 

▼「幼稚園」

(施設説明)
教育施設についてとりまとめた「学校教育法」に基づく「教育施設」であり、「学校教育法」により定められた設置基準を満たし、都道府県等に認可されている施設です。
文部科学省が所管します。

「3、4、5歳児」を対象にした施設です。開所時間内においては保育も実施しますが、「生活の場」ではなく「教育の場」が機能の中心であり、保育所と比べると預かりが短時間である施設が多いです。トイレトレーニングや給食の実施も施設によっては行っていません。

(施設分類)
市区町村が運営する「公立幼稚園」と、学校法人などが運営経営する民間保育所「私立幼稚園」があります。

(利用方法)
「公立幼稚園」は多くの場合、設置住所の市区町村民が利用できます。
「私立幼稚園」は施設が指定する地域であれば設置住所外の市区町村民が利用できる場合も多くあります。
希望者は施設に直接申し込みます。
利用料は定額である場合が多いです。「私立幼稚園」の場合、無償化施策は「一定金額までの補助」となります。

▼「認定こども園」

(施設説明)
「認可保育所」と「幼稚園」両方の機能を併合する新制度の施設であり、「児童福祉法」「学校教育法」二法を基準とし、各都道府県が条例で設置基準を規定しています。
内閣府が所管します。

(施設分類)
元々「幼稚園」であった施設が保育所機能を拡張させた場合に「幼稚園型」、「認可保育所」であった施設が幼稚園機能を拡張させた場合に「保育所型」と分類されます。
最初から認定こども園施設として新設した両方の機能を持つ施設を「幼保連携型」、元々「認可保育所」「幼稚園」のいずれでもない施設が認定こども園として機能している場合に「地方裁量型」と分類されます。

(利用方法)
希望者の就労等状況により申込方法が変わります。
「認可保育所」のところで説明した「長時間の保育が必要な未就学児」の場合は、「認可保育所」と同じように市区町村へ申し込みます。
そうでない場合は「幼稚園」と同じように施設に直接申し込みます。
「保育所」の機能を中心に利用するか、「幼稚園」の機能を中心に利用するかが変化します。

利用料は「保育所」機能中心である場合は認可保育園と同じように「応能負担」により住民税額により変動します。「幼稚園」機能中心である場合は定額であることが多いです。

▼「認可外保育施設」

(施設説明)
児童福祉法において「児童福祉施設」に分類される施設であり、市区町村へ設置を届け出した保育施設です。都道府県または市区町村ごとに設置基準が設定されています。
厚生労働省による認可を受けた保育施設と比較して認可外保育施設と呼ばれます。
都道府県が監督します。個人が届け出をしている場合もありますが、法人が設置している場合が多いです。

対象利用者は未就学児を対象としつつ、施設ごとに設定されています。

(施設分類)
東京都独自の認証を受けている「認証保育所」、内閣府の所管する助成を受けている「企業主導型保育事業」、自社従業員の子を預かる「認可外事業所内保育施設」(※)、夜間保育を実施する「ベビーホテル」、いずれにも該当しない「その他」に分類されることが多いです。

(※)「事業所内保育施設」とだけ表記されることも多いですが、認可保育所の地域型保育事業と同名になるため認可外を付記しています。元々認可外事業であった事業所内保育施設が一部認可に承認、転用されたことで同名表記の課題が起きています。

(利用方法)
施設により対象利用者が公表されています。該当していれば施設に直接申し込みます。
利用料金は月額定額制と時間制が多数ですが、認可保育所と同様に応能負担を採択している施設も一部あります。無償化施策については「一定金額までの補助」という形となります。

また国が定める「認可外保育施設の指定基準」の項目全てを満たした確認が出来ていることを意味する「認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書」(※)が交付されている施設を利用する場合、市区町村により利用補助金が支給される場合があります。

(※)「認可外保育施設の基準を満たす旨の証明書」と表記されている場合もあります。

▼「幼稚園類似施設」

※2021年4月から無償化(「一定金額までの補助」)対象施設となりました。
(施設説明)
「幼稚園」に類似する幼児教育を実施する施設であり、国の認可を受けていない施設です。
保育機能を強く持つ施設が「認可外保育施設の届け出」を出している場合や、「認定こども園の地方裁量型」への移行をした施設もあり、都道府県、市区町村により扱いが大きく異なります。

認可基準にない(モンテッソーリなど)特定の教育方法を採択することで独自の教育方針を打ち出している施設が多くあります。

(施設分類)
明確に「幼稚園類似施設」だと分類する基準が存在せず、長年の運営によって地域や自治体に受け入れられている場合に分類されていることが多いです。
幼稚園類似施設だと分類され、かつ特定の要件を満たした施設に関して、2021年4月より「幼児教育の無償化」の対象施設となりました。

(利用方法)
施設により対象利用者が公表されています。該当していれば施設に直接申し込みます。
月額固定性が多数ですが、延長保育料金などを設定している場合もあります。

ここまでが『行政が認める幼児教育をおこなう施設』5種類についての簡単な分類と紹介です。施策の対象外の施設・事業についてもつづけて記載します。

▽「届け出をしていない施設・事業」

(施設説明)
通常、保育を実施する上では個人や有償でない場合でも認可外保育施設の届け出は必要とされていますが、一部届け出が不要とされている施設・事業があります。

-「利用者を公募しない保育施設」
特定の店舗が顧客の乳幼児のみを保育する施設と親族(四親等以内)の乳幼児のみを預かる施設は例外として届け出は不要となっています。

-「学習教室」
幼児教育のうち、国語や算数、スポーツなど特定の項目に限る授業を行い、ごく短時間の利用を前提にしている事業については保育施設ではないとして届け出は不要となっています。

-「キッズスペース」
商業施設などに設置されている子どもが遊ぶためのスペースなどの設置も保育施設ではないとして届け出は不要となっています。

-「催事(不定期)」
「保育士を配置して子供を長時間預かる事業」のうち、その事業自体の開催が短日数(数か月)であればこちらも継続的な事業ではないとして届け出は不要となっています。
イベントの際に臨時開所しているスペースなどが該当します。

(-「無届」)
認可外保育施設の届け出が「必要」な事業を展開している施設のうち、事情によって届け出をしていない施設が存在します。「幼稚園類似施設」と自称する施設のうち地域や自治体に認められていない施設に関してここに分類されてしまう可能性もあります。

▲「幼児教育の無償化」施策三つの段落

対象施設は『行政が認める幼児教育をおこなう施設』。
行政の負担は原則「基本利用料金」。
対象幼児は原則3歳以上児。

今回の記事では一番解説の必要な「①対象施設は『行政が幼児教育をおこなう施設』」がどういったものであるのかについて説明しました。

「認可保育所」「幼稚園」「認定こども園」「認可外保育施設」「幼稚園類似施設」の5種類です。そして対象外である「届け出をしていない施設・事業」

「なんとな~く」で大丈夫です。
それぞれどういった施設なのかをご理解いただけたでしょうか。

 


ご理解いただけたら次はもう一歩、進んだ話をしていきたいと思います。
次回の記事では各施設によりフォーカスして「それぞれの施設でダブルケアラーにとってプラスとなる点、マイナスとなる点」を紹介したいと思います。

 

【ライター 森安元希】

 

保育士、介護福祉士、介護支援専門員

 

学生時代から非常勤のヘルパーを続け、介護福祉士、介護支援専門員を取得する。同時に、保育補助もダブルワークとして行い、保育士を取得。「介護業界に向けた保育園の在り方」と「育児世代に向けた在宅介護の在り方」を考え、企業主導型「保育所くまこぐま」を設立。園長を務める。